2021年11月16日(火)
「俗物図鑑」は、1972年(昭和47年)に、SF作家の大御所、筒井康隆さんによって書かれ、新潮社から出版されました。
私にとっては50年近くも前に読んだ作品ですが、今でも内容はよく覚えています。
この本が発刊された時代、私は筒井康隆という作家に深くのめり込んでいました。 (新作が出る度に、小説でもエッセイでも全部読んでいたと思います。)
筒井康隆さんの作品は、SF(サイエンス・フィクション)小説という分野に属しています。
(当時の分類と、今とでは若干違っているようですが。)
SFと言うのは、現実ではあり得ないこと、つまり夢物語を表現する文学と見なすことができます。
だから、荒唐無稽でハチャメチャなストーリーこそが、SF小説の特徴です。
そして、まだまだ若かった当時の私は、現実逃避とでも言うべきSFの世界が大好きだした。 (今でも、その気持ちは変わりません。)
この頃の日本には、「SF御三家」と言うのが存在していました。
星新一さん、小松左京さん、そして筒井康隆さんの3人です。
この中で、存命は筒井康隆さんお1人です。
でも、この他にも、多くの素晴らしいSF作家さんが、キラ星のように存在していました。
私が好きで、作品を読みあさったのは、眉村卓、半村良、かんべむさし(それぞれ敬称略)と言った作家たちです。
かつて、早川書房が「SFマガジン」と言う雑誌を月刊で発売し、店頭でも、そのジャンルの本をよく見かける等、一種のSFブームでしたが、最近は、雑誌が隔月版に変更され、あまり話題に上らなくなってしまっています。
少し、寂しい気持ちを覚えます。
話が脱線してしまいました。
SF長編小説「俗物図鑑」では、実にキャラクターの濃い評論家が、沢山登場します。
一癖も二癖もある、変人奇人ばっかりです。
評論家というのは、一般的には、文学や政治、芸能等、専門的な学問等に基づき、持論を展開する先生方を指します。
しかし、この「俗物図鑑」に登場する評論家は、ごくごく狭い世界での、ややオタクめいた事柄について、蘊蓄(こだわり)を持つ人物たちです。
主人公で、評論家集団のリーダー格の人物は、「接待評論家」を名乗っています。
この他、「吐瀉物評論家」に「口臭評論家」、「横領評論家」や「出歯亀評論家」等、中には犯罪めいたテーマも含め、様々な事柄の第一人者というか、オタク評論家が登場します。
そして、こうした評論家が集まり、「梁山泊プロダクション」と言うグループ(会社)を作り、活動をすると言う、本当にありえないストーリーです。
突飛で波瀾万丈の点が、とても面白かったです。
まさに、「筒井康隆の世界」です。
私個人は、この作品に触れ、若いながら、社会と言う枠にはめられることに対して、漠然とした危機感を覚えたものです。
そう言う意味では、青春時代の1ページとも言うべき作品でした。
とても懐かしいです。
昔と違い、今は、小説に対し、「荒唐無稽な現実離れ」よりも、「リアリティを持ちながらも意外性のある展開」を求める傾向があります。
筒井康隆氏のような作家は、意外と活動しづらい時代なのかもしれません。
しかし、時代は変わっても、けして変わることはない面白さを誇る作品もあるはずです。
改めて、「俗物図鑑」はSF小説の傑作だと思っています。
遠藤雅信
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