top of page
検索
masa-en

三越本店・栄光の5年


2021年10月23日(土)

最近は、消費者の「百貨店離れ」が顕著です。

かつては、百貨(何でも扱っている)と言うメリットを活かし、流通業の王様に君臨していた百貨店ですが、消費者の世代交代・インターネットを使った通販の台頭・消費者ニーズの多様化等によって、その優位性を失ってきました。

(ここ数年は、特に地方での、老舗百貨店の閉店や廃業が目立っています。)

かつての、ワンストップショッピングや接客第一主義と言った手法が、やや時代遅れになってきているのかもしれません。

私個人はと言うと、百貨店のビジネス構造に、将来性や確実性を感じて、この業界に就職した訳ですが、これほどの世の中の変化が、身近で起こるとは思いも寄りませんでした。 私が、三越に入社したのは1981年(昭和56年)でした。

百貨店が逆風を感じ始めた頃の、1999年(平成11年)12月から2002年(平成14年)2月にかけての27ヶ月間、三越日本橋本店は連続して、売上前年比プラスという快挙を達成しました。

この背景としては、平出昭二氏が本店長として強いリーダーシップ(1999年~2003年の期間、本店長に就く)を発揮したことと、新しい働き方である「お得意様営業部」の発足(1999年3月)が挙げられます。

そして、平出昭二本店長の下、新しく編成された、所謂、家庭外商的な組織「お得意様営業部」の活躍ぶりと、その基本となる考え方(方針)をまとめたのが、この本です。

三越本店・栄光の5年は、2019年に出版されました。

発行元は、東京図書出版です。

ある意味では、マーケティング学の教科書でもあり、ビジネス啓蒙書と言えます。

また、別の意味では、逆風の時代の中で約5年間、営業と言う戦場で、結果を出し続けたドキュメンタリーとも捉えられます。

あらゆる意味で、貴重な書物であることは間違いありません。

「お得意様偉業部」が、まだ正式な組織となる以前、プロジェクトチームの段階から参加し、後に、その基本となる方向性を作っていくのが、黒部篤志さんでした。

四国の徳島県出身で、大学時代は柔道部のエースとして活躍した、黒部氏がいなければ、この本に書かれているような輝かしい業績や、組織の活性化は成し遂げられなかったでしょう。

「お得意様営業部」が設立された趣旨は、三越が本来持っていた「帳場制度」の手法を、基本に立ち返って掘り起こすと言うことでした。

三越は、昔からマーケティングの手法をいくつか持っていて、その1つが「帳場制度」です。

「帳場制度」は、「番頭制度」とも言われるように、店頭で働く主に男子社員が、番頭(扱者)となって、限られた有力顧客1人1人に結びつくと言う制度です。

「帳場」となるお客さまは、外商の顧客とは異なっていて、実際に三越のお店に来店され買い物をされるお客さまです。

しかし、そのお客さまが、買い物に行きたいけど忙しくて外出できない時や、高額品の買い物でどうするか悩んだ時、売場所属の番頭さん(扱者)が、買い物を代行したり、相談に乗ったりしながらフォローしていたのです。

多分、三越独特の制度ではないかと思います。

お客さまにとっては、いつも同じ担当者が、買い物の相手や相談に乗ってくれることになり、より親しみが湧くし、とても便利だったと言えます。

但し、この制度にも弊害がありました。

それは、マンパワーが圧倒的にかかると言うことです。

「番頭」になっている男子社員にしてみれば、自分が担当するお客さまが買い物の為に来店すると言うことになれば、休みも取っていられませんし、本来の売場業務にも穴を空けてしまう結果となりました。

その後、三越は業績が著しく悪化し、希望退職を募りました。

これにより、店頭を含めた全体の人員はスリム化が図られましたが、その一方で、せっかくの「帳場制度」が有名無実化してしまったのです。

「帳場」のお客さまの引き継ぎ等がうまくいかず、せっかくの優力顧客が離反して行ったのです。

(もともとは、三越ファンのお客さまなので、全く離反することはなかったのでしょうが、担当する「番頭」さんが店頭からいなくなったことにより、買い物の頻度や金額はぐっと減りました。)

このことが、ボディーブローのように効いていき、業績の足を引っ張ったことは、容易に推察されます。

この「帳場制度」の良さを活かし、組織的に優力顧客(「帳場」のお客さま)に接するようにしたのが、所謂、「お得意様営業部」の改革でした。

とは言え、これも恒久的な施策ではありませんでした。

三越の業績は、再び下降を示し始めるのです。

それは、更にその後、三越が伊勢丹との経営統合を余儀なくされたことや、中型店舗の三越多摩センター店、主力店舗の恵比寿三越等が相次いで閉店に追い込まれたこと等が示しています。

(特に、ここ2年間くらいはコロナの逆風も強かったと言えます。)

私個人は、1998年(平成10年)~2003年(平成15年)の6年間、三越の札幌店で働いていました。

このことから、この本に書かれているような流れの外にいたと言えます。

とは言え、以前は三越本店で働いていた経験もあり、「帳場制度」の実態(いい面も悪い面も)や、「お得意様営業部」が作られた目的もよく理解しています。

私自身も、100人以上のお客さまを、「番頭」として受け持った時期もあります。

(部署変更となり、引き継ぎを行う時には本当に苦労しました。)

また、同期入社の仲間や知り合いの多くは、実際に、この本で書かれている組織「お得意様営業部」のメンバーやマネジメント職となり、汗を流していました。

だから、この本の内容は実によく理解できました。

しかし、個人的には、「帳場制度」が万能の施策だと言う考え方に立つ訳ではありません。

なんだか、お客さまを差別するようで好きになれないのです。

(結果的に、一部のお客さまをVIPとして優遇している訳ですから。) 理想としては、来店していただけるお客さまは、全て平等に扱うべきとも感じます。

百貨店マンとしては、いろんなケーススタディーがある中で、どの時期にどのような戦い方を選択すべきなのか、とても深い内容だと考えます。

そうしたことも含め、とても興味深く、示唆に富んだ素晴らしい本だと、改めて思います。

    遠藤雅信

閲覧数:13回0件のコメント

Kommentarer


bottom of page