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「タンスの中まで知る」伝説のONE TO ONEマーケティング


2021年10月25日(月)

三越特有のマーケティング戦略である、「帳場制度」に着目し、その歴史や成り立ち、日本橋三越本店の「お得意様営業部」の取り組み等、広範囲に解説しているのが、この本です。

「帳場制度」は、三越が、まだデパートとして業態変更を図る以前、呉服店だった頃に生まれた制度です。

(三越が、「デパートメント宣言」を世の中に対して発したのは、1905年1月のことでした。)

特定の顧客(顔の見える、所謂、有力顧客)に限定し、三井呉服店(三越の前身)では、掛け売りを行っていました。

当時は、売上(売掛)を台帳で管理していた為、「帳場」と言う名前が付いたとも言われています。

そして、この頃から、「帳場」と呼ばれるお客様1人1人に対しては、店頭の社員が必ず扱者(番頭とも言う)として付いていたことが特徴的でした。

その後、三越が業容を拡大する為、外商(外売り)に力を入れ始めたときに、威力を発揮し始めたのが、この「帳場制度」です。

三越の社員たちは、外商のノルマ(目標)を達成する為に、この「帳場」のお客さまを最大限に利用し始めました。

もともと、三越ファンで、比較的裕福な方が多かったことから、どんどん新商品や高額品・稀少商品を提案し、扱い売上げを伸ばしていったのでしょう。

多額の買い物をしてくれる、いいお客さまを「帳場」として、沢山扱っている社員は、その分、自分の成績も上がり、出世も早かったことが想定されます。 だから、「帳場」は、個人が持つ財産の1つであり、「誰にも渡さない」宝の山であったことは否定できません。

しかし、これは、社員が比較的潤沢にいた時の話です。

三越は、急激な業績悪化に見舞われ、希望退職を何度か募りました。

このことにより、店頭の社員はスリム化が図られましたが、一方では、引き継ぎ先のない「帳場」のお客さまも沢山生まれたと言えます。

つまり、せっかくの、三越の誇るマーケッティング手法の1つが有名無実化してしまったのです。

こうした流れの中で、有力顧客の市販を少しでも減らそうと、組織的な対応による、「帳場」の掘り起こしを再び行ったのが、日本橋三越本店の「お得意様営業部」でした。

三越の「帳場制度」の研究を行うとともに、実際に、三越の日本橋本店の「お得意様営業部」でマネジメント職に就いていた、鈴木一正さんが、この本をまとめました。

しっかりとした全体観の中で、個別の具体例や、現場の人へのインタビューも紹介しながら、実にわかりやすく、体系的にまとめられた素晴らしい本だと思います。

また、実際に現場で立ち会った人間ならではの臨場感や、詳しい数値的な裏付けも参考になりました。

マーケッティングにおける一つの理論をまとめた研究書であり、経験に基づくドキュメンタリーとも捉えられます。

衰退産業に位置づけられつつある百貨店業にとって、一石を投じる本だと思いました。

    遠藤雅信

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